産業機器業界やプラント業界向けの営業を担当する赤石大希。入社当時、なかなか成果を出すことができなかった赤石は、先輩の一言で大きく営業スタイルを変えた。現在は新たなターゲットに果敢に挑む赤石が、今でも拠りどころにする「原点」とは。
「こんなに熱心に話を聞いてくれる営業さんはいない」
入社2年目を迎えたころ、赤石は焦っていた。営業部門の同期が続々と結果を出し始めているなか、自身は未だ1件も受注に至っていなかったのだ。
赤石の担当は、ワイヤハーネスCADの営業だった。ワイヤハーネスとは、複数のケーブルやコネクタで構成された集合部品であり、電気機器に電力や信号を伝える役割を持つもの。その設計に用いるCADを核としたソリューションを、産業機器業界に向けて営業していた。
だが、なかなか結果が実らない。訪問のアポイントを取るのも苦労し、ようやく面会にこぎつけても空振りが続く。自分の不甲斐なさに嫌気がさしていたある日、営業に同行した先輩から指摘を受けた。「赤石はしゃべりすぎだよ」と。
全く自覚していなかったので、『えっ、そうなんですか?』と驚きました。ですが、思い返せば当時の自分は、説明やアピールに頭がいっぱいで、お客様の話を聞く余裕がなかったですね。お客様が求めているものや課題を理解していないのに、こちらの話が刺さるはずがありません
チャンスが訪れたのは、入社2年目の6月だった。新規で訪れた精密機械メーカーで「設計コストを下げたい」と悩んでいることを聞く。当時、この企業では電気設計や機械設計の分野ではIT化が進んでいたが、ワイヤハーネス設計の分野では未着手であったため、CADシステムの導入を検討している状況であった。
図研の他に競合他社からも提案を受けていて、システムの導入に二の足を踏んでいた状況でした。導入の懸念点として挙がっていたのは、他社の提案では設計プロセス自体に手を加えなければならず、コストやリスクが大きいということでした。そこで、図研なら設計プロセスを変えずにお客様の要望を満たす提案ができると伝えました
赤石の提案はメーカー担当者の心を掴んだが、商談は一向に前に進まない。それでも、せっかく掴んだ初の有力案件。簡単にあきらめるわけにはいかなかった。赤石は担当者を展示会の図研ブースや図研が主催するユーザー向けの勉強会に誘い、商談以外の場で「当社からの提案が御社の課題解決につながるイメージを持っていただけたなら、状況を前に進める方法を一緒に考えたい」と思いを伝えた。だから何でも話してほしい、と。
このような取り組みを行ったことで、ようやく担当者から真意を聞くことができた。そこで発覚したのは、問題は製品ではなく課題解決までの運用イメージが持てないことであった。担当者としては導入したいが、上司を説得することが困難なため導入を諦めかけていたという。
お互い腹を割って話すうちに、『こんなに熱心に話をきいてくれた営業さんはなかなかいない』と言われたのです。そんな言葉を聞いて初めて、営業本来のやりがいを実感できました。ただの製品紹介ならWebやパンフレットでも済みます。お客様の声に耳を傾け、本当の問題や課題に適した解決策をお客様のパートナーとして一緒に考えることこそ、営業の役割だと思いました
直属の上司やSEに相談し、具体的な運用イメージを持ってもらうため、赤石はあらゆる手段を摸索する。過去の設計図面を基に、図研の製品を用いて必要な機能や所要時間を洗い出し、他システムとの連携における懸念事項などを提案資料に落とし込んだ。
その結果、競合他社を凌ぐ図研製品の有用性を示すことができ、導入が決まった。これが赤石の初受注である。製品を売り込むのではなく、相手の話に耳を傾ける。そのための関係性を構築する。成功体験から自分なりの営業スタイルを身につけた赤石は、徐々に結果を残し始める。
後輩に教えるために、自分の営業方法を徹底的に分析
入社3年目となり、赤石は後輩の教育係となった。真面目な性格の後輩が苦手としていたのが、顧客へのヒアリングだった。
図研の営業活動では顧客の課題をヒアリングし、その原因となる問題を抽出することが重要となる。課題や問題点を正確に把握することで、顧客のニーズに合った提案ができるようになり、2回目の訪問や商談につながっていく。
当初、赤石もヒアリングを苦手としていたが、回数を重ねるうちに苦手意識が無くなり、課題のヒアリングもできるようになった。後輩もそうなるだろう、と見守るも、いくら初回訪問の数が増えても2回目の訪問につながる気配がない。改めて指導することになって初めて、赤石は「教えられない」ことに気がついた。
それまで経験則でヒアリングを行っていたので、丁寧に道筋を立てて教えられるほど、ノウハウの言語化ができていなかったのです。そこで、自分が普段どのように会話を進めているか、改めて徹底的に分析することにしました
赤石は自身の営業活動を振り返り、いつもお客様にヒアリングしている項目を洗い出した。さらに、相手からの質問に対し「なぜこれを聞かれたのか?」を掘り下げ、その要因を想定し、質問に見合う回答を複数用意するようにした。
いつしか赤石の手元には、質問と回答の膨大なパターンが揃うようになった。このパターンを後輩に伝えたところ、定型的なヒアリングではなく、顧客の興味や関心に応じて臨機応変な会話ができるようになったという。
ノウハウを体系化して伝えたことで、後輩のヒアリングが格段に上手になりました。課題を把握できるようになったことで商談に発展する案件が増えています。成果が目に見えると教えるモチベーションにつながりますし、なにより、後輩の成功は我が事のように嬉しいですね
自己分析を進めたことで、赤石自身にも良い影響があった。会話のパターンを意識し、相手が答えやすい質問をすることで、自身が担当する案件でも商談に発展する機会が増えたのだ。
後輩たちはたくさん悩みを抱えています。その悩みに答えるたびに、自分の中のノウハウが言語化されて、新しい気づきがある。後輩たちへの教育は、自分自身がもう一段成長する機会でもあると考えるようになりました
プラント業界でも図研製品をデファクトスタンダードに
赤石が図研に入社した理由のひとつは、図研が既存事業のみに固執せず、攻めの事業展開をしていたからだったという。プリント基板設計用CADシステムで、すでに国内トップシェアの地位にありながら、設計画像の3D化など新たな技術にもいち早く挑戦し、また、他の領域へもソリューションを展開していることに好感を持った。
その赤石は今、図研にとって新たな市場であるプラント業界を開拓している。電気設計領域やワイヤハーネス領域で培ったノウハウを、工場や生産設備の電気配線に応用しようというものだ。
一般的に、プラントの配線設計では汎用CADが使われているが、これはPC上で手書き作業を行っているようなイメージだ。電気情報が考慮された工事用図面に転記するのに手間がかかり、設計変更の際には抜け漏れが発生しやすいという課題があった。図研が提供する製品であれば、こうした管理工数の削減が期待できる。
汎用CADで配線図を描くと、若手とベテランではスキルや経験の差が大きく出やすくなります。また、設計者によって表現にバラツキがあったり、技術伝承がうまくいかなかったりといった問題もありました。プラント企業側もこのような課題を認識しており、お客様とお話できる機会も増えています
ただ、新規市場ならではの困難もある。図研にとってプラント建設の業務は、知見のある製造業とは異なり未知の領域だ。ニーズに合致した製品を提案するには、業務内容を十分に理解しなくてはならない。「産業機器などの機械設計とは全く違う」と、赤石はその難しさを口にする。
プラント建設では、建築主や設計・工事会社、設備メーカーなど、非常に多くの利害関係者が存在します。どの会社が何を担当しているのか、どこがターゲットで、決定権を握っているのは誰か、営業としてはこれまで以上にアンテナを高く張って、情報を集めなければなりません
気がつけば、赤石が訪問したプラント関連企業は1年近くで100社を超えていた。「訪問を重ねるたびに簡単ではないと思い知らされる」と言うが、話を聞く相手との時間が増えるにつれて、図研の製品に追加すべき機能を開発職にフィードバックする機会が増え、徐々に顧客のニーズに合う提案ができるようになった。
一歩、また一歩と前に進んでいく赤石。いずれは「プラント業界でも図研製品をデファクトスタンダードと言われるまでにしたい」と話す。
高いシェアを誇るプリント基板設計用CADシステムやワイヤハーネス設計用システムも、最初は先輩方が苦労しながら営業を重ねたはずです。先は長いかもしれませんが、いつか『あのころは大変だったよ』と振り返れるように、今度は自分たちが新たな道を敷いていけたらと思っています
先人たちが積み重ねた図研の歴史の上に、今がある。ならば、これからの新しい歴史を作るのは自分たちだ。未来の図研の姿を見据え、今日も赤石は顧客の声に耳を傾ける。
Questions & Answers
- 入社前後で図研に対する印象は変わった?
- 入社前は既存事業に注力している会社かと思っていましたが、実際には新ソリューションを次々と新しい市場に投入する革新的な企業イメージに変わりました。
- 図研の好きなところは?
- 若いうちから日本を代表する企業を担当できるところです。私自身、入社2年目から多くの企業を担当させていただき、新規営業を経験できました。また、何かあれば気軽に相談できる先輩が大勢いて、教育体制が整っていることも好きなポイントです。
- 職場にはどんな同僚・先輩・上司が多い?
- 仕事での喜びや苦悩の共有し、お互いを高め合うことができるメンバーが多くいます。先輩や上司は何でも気軽に相談できる方々ばかりで、仕事はもちろん、プライベートの相談もさせていただくこともあります。
- 学生時代の経験が役に立っていることは?
- 学生時代は労働経済学を中心に専攻しており、経済学の視点から労働市場を分析していました。この知識を営業の提案書に絡めることにより、ソリューション導入の必然性を説くことができるので役立っています。
- 休日はどのように過ごしてる?
- 休日は妻と喫茶店へ行き、読書や資格の勉強をしたり、ショッピングへ行ったりしています。また友人と趣味のゲームやゴルフをすることもあります。